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鰻の寝床

鰻の寝床

社会の禁煙化はどこまで進む?

4月にはJR東日本の首都圏エリアの駅ホームも禁煙に
 2000年代初頭からホームの全面禁煙化を進めてきた私鉄や地下鉄などとは違い、JRでは灰皿や喫煙コーナーをホームに設置する駅が少なくなかった。しかしこの春、大きな変化が訪れる。まずは3月14日のJR東海。176の在来線駅のホームにあったすべての喫煙スペースを一掃する(参照)。続いて4月1日のJR東日本。この日から首都圏17路線226駅のホームが全面禁煙となる(参照)。また、JR西日本では、大阪環状線とJRゆめ咲線ホームに限り、全面禁煙化を昨年10月から開始している(参照)。

 こうした禁煙化傾向を、
日本禁煙学会理事長の作田学氏は歓迎している。
「今回のJRの措置は、各社が明言しているように、いずれも受動喫煙の危険に配慮したもの。私鉄や地下鉄に比べれば、動き出しが遅かったとは思いますが、いずれにせよこれによって公共の場がますます禁煙化されます。近くに喫煙する人がいるだけで、吸わない人まで健康に害が及ぶのが受動喫煙です。この受動喫煙に対する理解が社会に浸透していくことにも期待をしています」

 一方、
たばこ問題情報センター代表の渡辺文学氏は、以下のようにクギを刺す。
「今回のことで、たしかに大きな一歩を踏み出すことになるとは思います。しかし、JR東海にしても、まだ新幹線のホームでは喫煙が可能ですし、日本のすべての駅ホームが禁煙になったわけではありません。ですから、今後さらに公共交通機関の禁煙化が推進されることを望んでいます」

鉄道以外の交通機関でも進む禁煙化の傾向
 では、他の交通機関はどうだろうか? 渡辺氏は昨年、独自の調査から「日本のたばこ事情・30年間比較リスト」を作成。1978年と2008年の「事情」の違いを示している。これによれば、'78年時点では地下鉄でさえも、ホーム・構内での喫煙が可能だった。旅客機には禁煙席がまったくなく、タクシーでも「禁煙」を唱うタクシーはゼロ。新幹線の禁煙車両にしても、こだま号の16輛編成中にわずか1輛という実態だったことがわかる。

「地下鉄は'88年以降に全国で終日全面禁煙となりました。飛行機は'98年に国内・国際線とも全面禁煙になりました。タクシーは今や全国約27万3000台のうち、約65%が禁煙タクシーとなり、'09年中にはこの割合が80%を超えそうです」(渡辺氏)

 こうして見ていけば、多様な交通機関が禁煙化を進めていることは間違いない。しかし、社会全般の禁煙化事情を他国と比較した場合、日本はまだまだ後進国なのだと作田氏は指摘する。
「かつてほどではなくなりましたが、今でも世の中で禁煙化が進むことを『行き過ぎ』と説く人がいます。しかし、日本がいまだに先進国の中で突出して喫煙率が高いのは事実です。交通機関や飲食店など、不特定多数の人が利用する場面で喫煙が許されている度合いもまだまだ高いのです。喫煙そのものが健康に及ぼす悪影響、受動喫煙による健康被害もすべて事実ですから、今よりもなお禁煙化を進展していくべきだと私は考えます」

 ちなみに、'02年にWHOが発表した
世界各国の喫煙率の統計を見ると、日本人男性の喫煙率は52.8%。米国男性の25.7%と比べて2倍以上の喫煙率だ。ヨーロッパの先進国の多くも、およそ30%台であることから考えても、日本が作田氏の言う「突出した喫煙率の高さ」であることは間違いない。

 その一方で、たばこの国内販売は低迷している。社団法人・日本たばこ協会が発表している
国内販売数量の変遷を見れば、この10年で減少の一途。直近の状況にしても、同協会が毎月発表する紙巻たばこ販売データが示すように、販売数量・金額ともに昨年5月以降、前年割れが続いている。「たばこ離れ」が社会の禁煙化を後押しするかっこうになっていると捉えることもできるだろうが、作田氏は「もっともっと、たばこの害を理解してほしい」と語る。

「今年に入って、米国の医師が論文に『サードハンドスモーク』という呼び名を示し、たばこの新たな健康被害として注目されています。今まで言われてきた受動喫煙は、いってみれば『セカンドハンドスモーク』。自分以外の人が出す、たばこの煙を吸引することによる健康被害でした。ところが、喫煙者が生活する部屋では、たばこの煙は消えていても、家具の表面やほこりなどにニコチンが高濃度で沈着しているため、これが他の生活者に害を及ぼすのです。これがサードハンドスモーク。目の前にたばこを吸う人がいなくても、その空間に過去の喫煙によるニコチンが蓄積されていれば、関係のない人にも害を及ぼすわけです。以上の概念はまだ広く浸透していないものの、悪影響が科学的に明らかになってくれば、現状の禁煙状況ではまだまだ足りないことがはっきりするでしょう」

 作田氏が指摘するように、たばこが喫煙者自身だけでなく、周囲も巻き込んで健康被害をもたらすことは明らかとなっている。そのため、日本医師会はホームページにおいて、たばこ税増税への
賛成署名を募っている。昨年の税制改正論議において、たばこ税の増税がテーマとなり注目を集めたことに端を発する動きといえる。

 近年、政界では総選挙がたびたび話題となっているわけだが、これにも絡んで、民主党などは「たばこ事業法の廃止」を打ち出している。昨年12月に民主党が発表した「
税制抜本改革アクションプログラム」には、以下のように明記されている。
「たばこ税については財源確保の目的で規定されている現行の「たばこ事業法」を廃止して、健康増進目的のたばこ規制法を新たに創設し、「たばこ規制枠組み条約」の締約国として、かねてから国際約束として求められている喫煙率を下げるための価格政策の一環として税を位置づける。具体的には現行の「一本あたりいくら」といった課税方法ではなく、より健康への影響を考えた基準で、国民が納得できるような課税方法を検討する。さらに、その際にはJTに対するさまざまな事業規制や政府保有株式のあり方、葉たばこ農家への対応を同時に行う」

 一方、地方行政でも動きはある。神奈川県の松沢成文知事は、昨年4月、不特定多数の人が利用する施設での喫煙を禁じる「
公共的施設における禁煙条例(仮称)」の素案を発表。屋内での喫煙を規制する条例としては全国初ということで注目を集めた。

渡辺氏によれば、横浜市や広島市、浜松市など、「意識」の高い市長が率いる地域などでは、庁舎内の禁煙や受動喫煙への理解を促すポスターの作成などなど、積極的な施策が始まっているとのこと。作田氏は、厚労省の
健康増進法に、「罰則規定を設けるべき」との動きがあることを指摘する。
「JRに限らず、民間企業が受動喫煙の問題を正しく理解して、社会が徐々に禁煙化へと向かっていることは良いことです。けれども、今後一層、公共施設全般に禁煙が広がっていくようになるには、どうしても行政の後押しが不可欠だと考えます。たばこ事業法にメスを入れる政権や、神奈川県の条例が可決して、その効果のほどが全国に知られ、追随する自治体が増えていくことを私たちは望んでいます」

 禁煙化の進展は、もはや「喫煙者の自由が奪われる」云々という次元ではない。他の先進国よりも遅れてやってきた「たばこ離れ」の現象は、今後も進展すると考えた方がいいだろう。
(記事)


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